「杏っ子」室生犀星

生い立ちに数奇な運命をもちながら、文壇に老大家としての地位を築いた作家平山平四郎の生涯と、野生をひそめたその娘杏っ子の生々流転の姿を鮮やかに描く。さまざまな浮き沈みを経た犀星の筆は、父と娘の微妙な情愛と絆を捉え、不幸な結婚にあえぐ杏っ子のなかに女の愛と執念を追究する。人生の底のよどみを苛酷なまでに抉り出し、生涯の情熱を傾けて描ききった自伝的長編小説。

室生犀星は詩の人だと思っている。
けれども読んだ事があるのは小説ばかり。その小説は決して上手な出来とは言えないけれど、まぁ、それはそれとして。

私にも娘が生まれたこともあって、この「杏っ子」の父娘の様子を我が身に照らして感じ取ってしまう。
私の娘が、杏っ子の夫のようなどうしようもないヤツと結婚してしまったりしたら、私は憤り、平四郎のように静かに構えて見ている事は出来ないだろうと思う。
そも、結婚して一家をなしているというのに、その暮し向きについて考えもせず、己の拙い夢を崩そうとしないこの夫亮吉の姿勢は見ていて相当にムカツクものだ。私が平四郎であればズカズカと夫婦の間に割り入って、さっさと離婚させて家に連れ戻すだろう。
……とは言うものの、平四郎のように娘を一個の大人として捉えて、自分の思いを棚上げしてどうするかを任せるような姿勢はそれでとても立派なものだと思う。
そして、やはりこの父娘のあり方はお互いが信頼しあい、認めあっている、なかなかいい関係だな、と思った。

杏っ子 (新潮文庫)

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